つなぐ人びと

家族と耕し 仲間と肩組み 燃えたつ心

  • 秋田県 JA秋田おばこ管内(秋田県大仙市)
  • 2025年8月

小松瑞穂さん

家族と耕し 仲間と肩組み 燃えたつ心

子どもの頃から身近だった農業を仕事にして十五年。
二百年続く農家の十一代目として地域や農業の魅力を発信しています。

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 四月初旬、一メートルほど積もった雪の姿は消えたものの、冬の空気が居座る秋田県大仙市。東の奥羽山脈真昼山地、西の出羽山地に挟まれています。この地が春を感じるのは、四月も下旬になってからです。
「今年は三月下旬になっても雪がかなり降っていました。雪も解け、ようやく圃場の土づくりを始められます」
 そう話すのは、アウトドアブランドのピンクのつなぎ服を着こなし、大型トラクターに乗り込む小松瑞穂さん(34)です。軽快に操って圃場へと移動。シャベルで、籾殻をまいていきます。大の機械好きで、運転はもちろん、小型農機のメンテナンスまでお手のものです。
 瑞穂さんは、二百年にわたって農業を営んできた家の十一代目です。現在は祖父の小松一義さん(87)と祖母の益子さん(85)と共に、十ヘクタールの水稲と八十アールの畑でエダマメを中心に野菜の栽培をしています。

 幼い頃から広々とした圃場が遊び場でした、と話す瑞穂さん。友人と虫を捕まえたり、草花を摘んだり、クラスメートを集めて野球の試合をするなど、自然の中でのびのびと成長。よく農作業の手伝いもしていました。
「当時はウシを飼っていて、わたしの仕事は餌をあげることでした。また田植えや収穫の時期は、当然のようにお手伝い。ただ遊びの延長というか、家族で田畑にいるのが楽しくて、嫌だと思ったことは一度もなかったな」
 農業に就くことを意識したのは中学生のとき。一人っ子として家を継がねばという責任感からではなく、自然の中で家族と共に働くっていいな、と思えたからです。
「ただ『なんで農業なの?』と、友人によく尋ねられました。おもしろみのない、とても過酷な仕事に思えたんじゃないかな(笑)」
 岩手の県立農業大学校へ進学し、興味のあった野菜経営を専攻します。野菜栽培や農業経営を学び、トラクターの免許も取得。大学校生活でいちばん印象に残っているのは、岩手県のナス農家での二週間にわたる農業研修です。
「家族経営の農家で、家族で働くよさを改めて実感しました。ご夫妻からは『手間をかければ、いいものができる』という言葉をもらって、農業は自分の取り組み方しだいと教えてもらいました」

 平成二十三年、やる気満々で農業人生をスタート。当時、秋田県では〝エダマメ生産日本一〟をめざしていた時期であり、小松家でも栽培を始めた頃でした。野菜栽培を学んだ瑞穂さんが、主担当になります。しかし学んだ知識を生かそうとしても、一義さんは聞き入れてくれません。瑞穂さんが植えつけたあと、すべてをやり直す姿に何度もけんかになった、と笑います。
「家族ですし、けんかしてもあとには残らないです。でもやっぱり悔しくて、信頼してもらえるよう栽培技術を上げていかねばならない、と思いました」
 そこで瑞穂さんは、JAの講習会やエダマメ部会の勉強会へ積極的に参加。先輩農家の圃場を視察しては、質問攻めにします。がんばる姿に周囲からの応援も得られました。多くの支えや努力が実を結び、栽培三年めにはJA秋田おばこに、一定量を出荷できるまでになります。今ではエダマメの選別作業などに、地域の女性をパート雇用するまでになっています。
「パートの方に『やりがいになっている』と感謝されることもあり、うれしいのひと言です。JAエダマメ部会の役員にもなって、祖父も『今はこんなやり方か』と、わたしの話を聞いてくれるようになりましたね」

 米やエダマメだけでなく、瑞穂さんは新しい農産物にも挑戦中です。それは、数年前にカフェで出合った〝エディブルフラワー〟。菓子を彩る鮮やかな花に感激したことがきっかけで、ハウスで栽培を始めました。
 試行錯誤しながらも、販路を考えてSNSで栽培の様子を発信。すると県内のホテルやレストラン、カフェなどから、注文が寄せられるようになりました。
「行政や母校(中学校)の生徒と協力し、栽培や商品開発をしています。将来的には、地域に愛着を持てる特産品にしていきたいな」
また、地域の農業や郷土の文化を伝えるための活動にも、積極的に携わっています。その一つが、子どもとの農業体験。特別支援学校でのエダマメの栽培指導を引き受けたり、所属するJA女性部で小学生と田植えや稲刈りをしたりしています。収穫した米や野菜で振る舞う郷土食は、子どもたちに大人気だそうです。
 もう一つは、近郊観光地で開催する月に一度の〝マルシェ活動〟です。地域の農産物を県内外の人に知ってほしいと、約十人の若手農家と運営に力を注いでいます。
「秋田に住んでいても、農業に関わりのない人は多いです。次世代となる子どもに、地域を支えてきた農業や、食にふれる機会を増やしていきたいですね」

 農業を始めて十五年になる瑞穂さん。地域や人に支えられた年月のなかで、ますます秋田のことが好きになっています。全国から秋田に人を呼び、郷土の食文化を伝えたいと、築百五十年の自宅を活用した農家民宿や、祖母の味を受け継いだ漬け物加工所を目下、構想中です。
「いろいろな活動を知った友人からは『いつも楽しそう』『農業はいい仕事だね』と言われることが増えました。中学生の頃を思えば、時代が変化したのを感じます。次世代もワクワクする農業を仲間と創っていきたい。〝エダマメ生産日本一〟も奪回したいし、やりたいことだらけです」

文=森 ゆきこ 写真=鈴木加寿彦

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