つなぐ人びと

一心発起し奮闘を続けてつかむ喜び

  • 福井県 JA福井県管内(福井県勝山市)
  • 2025年12月

滝本ふぁーむ 滝本和子さん

一心発起し奮闘を続けてつかむ喜び

父の大けがをきっかけに飛び込んだ〝農業の世界〟。
経営を立て直して家族と共に農業、加工品作り、カフェ運営をする女性です。
地域に新しい風を吹き込んでいます。

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 うだるような暑さの中、盆を過ぎた田んぼには、アキムシ、アキアカネが飛んでいます。
「暑いけど十日もすれば稲刈り。そろそろ準備しないとね」
 黄金に色づき始めた稲穂をかるく握りながら話してくれたのは「滝本ふぁーむ」代表の滝本和子さん(51)です。
 福井県勝山市にある古刹・白山平泉寺の近くで、農業を営む滝本ふぁーむは、三ヘクタールの圃場で水稲や自家用野菜を栽培。加工品作りにも取り組んでいます。
 父の滝本幹男さん(76)が開拓した圃場。その後、アイガモ農法と出合い、母の礼子さん(77)と助け合いながら、水稲栽培を続けてきました。
「森を切り開き、土づくりから始めた父。今でこそ尊敬していますが、若い頃は〝農業なんてぜったいに嫌〟と思っていました」
 両親、海外勤務の夫、そして四人の子どもと八人家族の和子さん。福井市でイベント企画会社の社長として、農業とは縁のない日々を過ごしてきました。

 就農したのは、四十歳の頃。幹男さんが、頭蓋骨と首の骨折という大けがを負ったことがきっかけでした。
「その年は米が凶作で父が落ち込んじゃって。そんなときに農舎の高所から落っこちた。母は泣くし、家業をつなぐため〝わたしがやるか〟と、会社をたたんで就農しました」
 農業に励むなか、収支管理も任された和子さん。赤字ギリギリの経営状況を知り、がくぜんとなったそう。しかし、〝やる〟と決めた家業を継続するため奮闘します。
 まずは、主力商品の米の売り方を見直すことに。取引先と話をするなかで「圃場の環境」と「作り手の思い」をより多くの人に伝えていかねばと、ウェブサイトをリニューアル。それまでのネット販売は三十キロのみでしたが、三百グラムからの商品化へ踏み切り、売り方を一新しました。
「新規の購入者が増えました。また著名な料理人に使っていただき、さらに注目も。ありがたいことに、今では三年先まで予約でいっぱいです」

 米以外の商品もと、一年めから加工品の開発を始めます。母の礼子さんが造るみそがおいしいからと、見よう見まねでみそを仕込みました。初めて造ったみそを料理店に売り込みに行くと「なんだこれ、しょっぱい!」と、さんざんな評価でした。
 落ち込むなか、就農直後に加入したJA女性部の先輩に相談すると「自家製麴で、みそ造りしたら?」とのアドバイスをもらいます。そこであえて難しい発芽玄米で麴を造り、県産ダイズで仕込んだところ大成功!
 完成した「手仕込み玄米麹味噌」は、コクのある甘みと粒感があり、幅広い層が買い求めるように。毎年インターネットで完売する人気商品に成長しました。
「女性部の先輩たちに相談すると、解決策やヒントをくれるの。野菜の栽培技術も惜しみなく教えてくれて、ほんとうに頼りになる存在です」
 みそのほか、滝本ふぁーむはポン菓子「七にっつぁん・八にっつぁん」も製造。一年の労をねぎらい十二月二十七、二十八日に平泉寺地域で食べる伝統のポン菓子を、礼子さんが長年手がけてきました。いつも工夫を凝らす和子さんですが、この菓子だけは、味や製法を受け継いでいます。
「昔は地域の農家で作っていたけど、今ではうちぐらい。変えずに守っていきたい」
 就農十年を過ぎた今は、JA女性部をはじめ、市の農業委員会、ふくい農業女子会など、地域の農業をけん引する立場として積極的に活動をしています。
 そんな和子さんの姿が刺激になり、幹男さんは農業ができるまでに回復しました。
「元気になった父とは、農作業をめぐってけんかもします。新しいトラクターには触らせてもらえない(笑)。経営は任されているので、認めてくれてはいると思いますよ」

 最近、力を注いでいるのが、地域を盛り上げる取り組みと次世代の支援。以前から趣味のロードバイクをテーマにした、カフェの構想を温めてきました。子どもが通った思い出深い保育園が建設資材置き場になると聞き、令和六年十月に購入。念願のカフェ事業を始めることにしました。
 相棒にしたのは、栄養士で調理経験も豊富な長女の紫音さん(26)。彼女のアイデアも取り入れ、週三日営業の「平泉寺のパン屋さんカフェ」を七年四月にオープンしました。
「接客はわたし、製造は娘が担当。四十種類ものパンが並びます。入店は一組ずつにしているので、お客さんに合わせた対応ができ、パンをじっくり選べると好評です」
 多い日には一日百組以上が来店。おいしいパンと居心地のいいカフェを目当てに、地域の人やサイクリストも訪れます。さらに、平泉寺地域の歴史や文化を伝えたいと、宿泊施設も準備中です。
 また七年から、県内の大学生アスリートへ〝食支援〟をしています。米価格の高騰で満足に食事をとれていない学生がいると聞き、まずは二校に米を三十キロずつ提供しました。学生からは、農業体験希望の声も上がっています。
「食支援で次世代が、地域や農業に関心を寄せるきっかけになればうれしい。家族や仲間と、これからも平泉寺地域の魅力、農業の楽しさを伝えていきたいと思っています」

文=森 ゆきこ 写真=前田博史

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