大地のおくりもの
みず菜
- 茨城県 JAなめがたしおさい みず菜部会(茨城県行方市)
- 2025年8月

シャキシャキとした食感が心地よい
みず菜
柔らかい小株で収穫し、サラダでも味わえるミズナ。
生産者は土づくり、水の管理と精を出す日々です。日本一の生産量を誇る茨城県の主要産地を訪ねました。
海と見まごうばかりの霞ケ浦、そして北浦という二つの広大な湖に挟まれた茨城県行方市。その水際は五十キロにも及び、県を代表する美しい景観と豊かな水のまちとして知られる。初夏、ハウスの中ではピンと葉先の伸びた若草色のミズナがいっせいに育っていた。
「ここでは一年中、ミズナを栽培しています。地下水をふんだんに使える環境が、生育にぴったりなんですよ」
そう話すのは、祖父の代からこの地で農家を営む、JAなめがたしおさい「みず菜部会」副部長の仲居友彦さん(48)。栽培面積は約一ヘクタール、四十棟のハウスでミズナを通年出荷している。

ところでミズナといえば、別名「京菜」とも呼ばれ、平安時代には栽培されていた日本原産の野菜。かつて畑に清流を引き入れて栽培したことから、ミズナと呼ばれるようになったとされる。もともとは、一株で四キロ超に大きく育てたものが主流で、おもに漬け物野菜として関西地方で親しまれていた。
現在は、茨城県が日本一の出荷量を誇るミズナの産地になっている。平成十三年、まだ柔らかい小株のうちに収穫し、サラダで味わえるミズナとして出荷を開始。それが人気を集め、一気に生産が拡大したと仲居さんは説明する。
「ピンと伸びたギザギザの葉、きれいな若草色の柔らかい葉、シャキシャキとした心地よい食感がミズナの持ち味です。くせがほとんどないので、サラダでおいしく食べられます。わたしは、しゃぶしゃぶでかるく火を通し、豚ばら肉を巻いて、ごまだれで食べるのがいちばん好きですね」
根張りをよくするマッシュルーム堆肥
JAなめがたしおさい管内で生産される「みず菜」は、播種から収穫まで平均で四十五日。冬は六十日かかることもあるが、初夏は三十日ほどで収穫できる。気候がよいと生育がどんどん早まって、一日に二センチも葉が伸びてしまうこともある。
葉が長くなりすぎると出荷用の袋に入らないため、収穫適期はわずか数日。次々と収穫し、収穫を終えたハウスはきれいに残渣を撤去し、すぐに次の播種の準備を始める。

仲居さんらは十年ほど前から二作に一度ほど「マッシュルーム堆肥」を入れて、土づくりをしているという。
「市内に競走馬の厩舎のわらを、菌床に利用しているマッシュルーム生産者がいるんです。その使い終えた菌床を、十年ほど前から堆肥としてミズナ栽培に再利用しています。この堆肥を使うようになってからというもの、ミズナの根張りがよくなって、病気にも強くなりましたね」
マッシュルーム堆肥に含まれる有益な菌が、病原菌の増殖を抑制し、病気を防ぐ効果があるのではないかと仲居さんは考えている。
近年の夏は、猛暑に見舞われることが増えている。年々、ミズナの栽培が厳しくなってきているとも話す。
「播種したばかりで高温になりすぎると、発芽障害が起こります。そこで芽が出る直前まで、遮光ネットを掛けて、温度が上がらないように、工夫をしています」
とくに気を使うのが、生育段階や季節に応じた水の管理。夏の播種前は半日ほど水をかけっ放しにし、地中に水を浸透させるようにしている。条件がよければ、三日ほどで発芽する。
発芽しても油断はできない。生育初期は根が弱いため、とくに乾燥しないように気をつけて、こまめに灌水するという。生育段階に応じて、乾湿の差をつけて管理しなければならないのも難しいところだ。
「根をしっかり張るまでは弱いのですが、ある程度大きくなれば自力で水を吸えます。一見、土の表面が乾いているようでも、一センチくらい掘ってみて水分があれば、だいじょうぶ。生育に応じて、水分量を調整しています」

夏の収穫時は、一時間ほど前からハウスに遮光ネットを掛けて日陰にしておく。日中の強い日ざしにさらされるとミズナは葉から水分を蒸散。ぐったりとしてしまうが、しばらく日陰にしておくと水分が保持され、葉先までピンと元気に立つ。
またハウス内に風を通して、木陰のように涼しい状態にしてあり、収穫作業時の暑さ対策にもなっていると仲居さんは話す。
「この辺りはちょうど風の通り道で、日陰に入ると比較的涼しいんですよ。ただし冬は寒気が厳しく、雪はめったに積もりませんが、気温がマイナス一〇度前後になることもあります」
太平洋から霞ケ浦を渡る潮風が、爽やかに吹く夏。青々として涼しげな葉のミズナが、東北から関西方面まで出荷されていく。

文=加藤恭子 写真=研壁秀俊