大地のおくりもの
夏秋なす
- 岐阜県 JAいび川 夏秋なす生産組合(岐阜県池田町)
- 2025年10月

濃黒紫色でみずみずしい
夏秋なす
揖斐川沿いに広がる地域は、豊富な山水に恵まれたナス栽培の適地。
昭和四十年代から続く産地は今も品質の高いナスを実らせています。
古来、木曽三川の一つに数えられる一級河川の揖斐川。その雄大な流れによって形成された、肥沃な土壌が広がる岐阜県池田町では、品質の高いナスが露地栽培されている。六月末から十月初めごろまで、長期にわたって収穫が続く「夏秋なす」だ。
「江戸時代以前、この辺り一帯は揖斐川の支流だったそう。曲がりくねった流れが氾濫を繰り返しながら姿を変えていき、自然に現在の揖斐川になったそうです。今でも畑の土を五メートルほど掘ると、川の石がゴロゴロと出てくるんですよ」
夏、ジリジリと照りつける日ざしの下、たわわに実ったナスを見ながら話すのは、JAいび川「夏秋なす生産組合」組合長の今西正直さん(54)。標高九二四メートルの池田山を望み、山水がとうとうと流れる用水路に挟まれた約五アールの畑で、三百五十株のナスを栽培している。

岐阜県でナスの栽培が本格的に始まったのは、昭和四十年代。揖斐川沿いに広がるこの地域では、安定してナスが収穫できることから生産者が増え、六十一年に同生産組合が発足した。
この地域の暑さと豊富な山水が、ナス栽培に適していると今西さんは続ける。
「夏は、気温三五度以上の猛暑になることが多いんです。ナスは水不足になると果皮の色がくすんで、商品価値が落ちてしまいます。そこで夕方六時ごろから朝まで、用水路から水を畝間に流し入れて、ナスがたっぷり水を吸えるようにしています」
地中深くに川の石が埋まっているという畑は、水を流し続けてもスーッと抜け、たまることがない。翌朝には、みずみずしい姿で花を咲かせ、次々と色つやのよい果実をつけてくれる。

帰農塾を開催 生産者を増やす
肥沃な土壌も、ナス栽培にはうってつけだ。JAの職員だった今西さんが、父の後を継いで就農したのは五十歳のとき。かつて養鶏を中心に営んでいた父は、鶏ふんをたっぷりと使った土づくりをしていたという。
就農したばかりの年はあまりにも草勢がよく、どんどん分枝して果実をつけるナスに圧倒されたという。手入れが追いつかなかったほど、と今西さんは振り返る。
「四本の枝を伸ばし、誘引ひもでつってV字に枝を開かせる、一般的な仕立て方なのですが、当初は次から次へと側枝が出てくるので、整枝が間に合わなくて、ナスの畑がジャングルのようになってしまいました(笑)」
側枝が出た分だけ驚くほどたくさんの果実がついたが、着果負担が大きすぎて株が倒れるなど、最初の年は収穫量が減ってしまった。

整枝は「側枝一果どり」。側枝に実った一果をとったらその枝先を摘芯し、ふたたび出てきた新しい側枝に実をつけさせるという方法。摘芯を繰り返すことで、長期間にわたって株の若々しさが保たれ、最終的に収穫量が多くなる。
また、つねに新しい枝が出るため、お盆の頃の切り戻しは必要なく、果実のとれない期間のタイムロスがなくなるのも利点だという。
品種は、父の代から変わらないという『千両』。やや小ぶりな果実は濃黒紫色でつやがあり、みずみずしく、柔らかい果肉が市場でも評価されている。
しかし適期の果実を見逃すと、あっという間に肥大しすぎて、色つやがなくなり商品価値が落ちてしまう。A品の果実は百~百十九グラム。果皮が張り詰めたようにつやつやと輝き、まっすぐに育った果実がよいとされる。
「問題なのがナスを吸汁するカメムシの被害です。被害を抑える根本的な対策は、圃場をきれいに保つこと。草刈りをこまめにして、風通しや日照をよくするように気をつけています」
また、ナスは風の揺れに弱い。強風で葉が果実に当たって傷つけることがないよう、なるべく果実の近くの葉を摘葉するなど、こまやかな日々の作業が欠かせない。

JAいび川「夏秋なす生産組合」の生産者は、五十~七十代の九人。五十アールの栽培面積で、年間五~六トンの市場出荷をしている。
「市場出荷は、量も勝負」と、JA営農部営農課の川村光起さんは話す。
「いま、JAいび川では二年に一度『夏秋なす帰農塾』を開催し、栽培技術を伝えて生産者を増やす取り組みを進めています。現地研修では、今西さんにも栽培指導に当たっていただいています」
栽培に興味のある人を積極的に受け入れ、生産量を増やしていきたいと声をそろえる今西さんと川村さん。揖斐川の恩恵を受けて育つ、この地の「夏秋なす」を守っていく。

文=加藤恭子 写真=研壁秀俊






