大地のおくりもの
球磨のなす
- 熊本県 JAくま 茄子部会(熊本県多良木町)
- 2024年10月
盆地の恵みと熟練の技が育む夏秋ナス
球磨のなす
熊本県は、全国トップクラスのナス生産量を誇ります。五~十一月には「夏秋ナス」が出荷されます。その生産に力を注ぐ産地を訪ねました。
JAくま管内は、九州山地の山ふところに抱かれた、球磨盆地(人吉盆地)に広がる。
市房山をはじめとする、標高一五〇〇メートル級の山々に囲まれた盆地の中央には、日本三大急流に数えられる球磨川が流れている。
そうした自然豊かな環境を生かし、多くの農産物が育まれるなか、夏から秋にかけて出荷のピークを迎えるのが、夏秋ナス「球磨のなす」だ。
県内では、ビニールハウスやガラス室などの施設を利用した、周年出荷が主流になっているそう。
「でも、ここら辺りは一〇〇パーセント、夏秋ナスです。しかも、露地での栽培がメインになります」
JAくま茄子部会の部会長、黒木康徳さん(71)が、教えてくれた。
部会員は現在四十二人で、栽培面積は約二・五ヘクタール。全国トップクラスのナス生産量を誇る熊本県では、けっして大きな産地ではないが、五月中旬~十一月中旬に出荷する夏秋ナスでは、県内を代表する存在。とくに品質のよさには定評がある。
直射日光をふんだんに浴びて育つ夏秋ナスは、色つやが抜群。また、球磨川やその支流などの豊富な水源から水を与えられて育つため、みずみずしい。加えて、盆地特有の昼夜の寒暖差が甘みをもたらしている。
「市場関係者からは『球磨の夏秋ナスは味がいいだけでなく、日もちもいい』と評価してもらっているんです」
黒木さんは胸を張る。
当日選果・出荷で鮮度保持に注力
露地栽培は、雨と風、病気や虫との闘いでもある。
圃場の排水性をよくするために、地下には暗渠を設置。圃場の周囲にも、額縁明渠と呼ばれる排水路を掘り、畝も二十~三十センチの高畝にしている。
強風対策としては、圃場の周囲を防風ネットで囲んだうえで、それぞれの株を支柱でしっかりと固定。定植後は、枝が風になびかないよう、早めに誘引作業をしている。
ちなみに、株は〝四本仕立て〟にしている。他産地では三本仕立てが主流だが、短期間で多くの量を収穫するため、伝統的にこの仕立て方にしているのだ。これも雨風の影響を受けやすい露地栽培ならではの工夫だ。
また黒木さんは、かならず前年に水田だった場所で、夏秋ナスを栽培している。
「米を二~三年作ってから、ナスを作るといい。夏場に水をためることで、土壌消毒になるんです。だから病気になりにくくて、連作障害も出ませんよ」
そのうえ防除もするのだが、それでも虫は出てきて、病気も出るという。そのたびに対策に追われることも、しばしばある。
また、強い日ざしの下での農作業は過酷を極める。毎日の収穫は、暑さを避けるために、夜明けから始める。
そんな生産者の努力に報いるために、JAくまでは夏秋ナスの鮮度保持に力を注いでいる。
「JA選果場では、当日の持ち込みと、当日の選果にこだわっています。市場へも、できるだけその日のうちに送り出しています」
そう話すのは、JAくま営農指導課のナス担当、永井怜さん。朝は七時半から管内の夏秋ナスの集荷を始め、当日の出荷につなげている。
広いJA選果場の一角、夏秋ナスの選果スペースだけカーテンで仕切られ、クーラーが利いている。これも人のためというより、ナスの鮮度を保持するためだ。
選果は、人と機械の共同作業。まずは人が傷の有無を見て「秀・優・良」の三等級に分類する。次に選果機のカメラがサイズや曲がりを識別して階級を分ける。
最後の箱詰めは、熟練の作業員による手作業になる。一本一本タオルで磨いて、きれいに出荷箱にそろえていく。ていねいな作業ぶりに、夏秋ナスへの愛情を感じる。
だが一方で、高齢化による生産者の減少という課題も忍び寄る。十年前と比べ、生産者は十一人、栽培面積は一・三ヘクタール減少した。そこで今、JAを挙げて、新規就農者の募集やサポートに尽力している。
「夏秋ナス『球磨のなす』は需要があり、単価が安定しているのが魅力です。市場からの評価も高いので、後継者を一人でも多く育てていくことが、これからの目標。わたしも、あと十年はがんばるつもりです。興味がある人には、アドバイスしますよ!」
黒木さんは、産地の未来の育成に燃えている。
文=茂島信一 写真=下曽山弓子