つなぐ人びと

故郷に帰って夫婦で歩む 〝牛飼い〟の道

  • 秋田県 JA秋田おばこ管内(秋田県大仙市)
  • 2025年4月

南外畜産 佐藤大輝さん・優実さん夫婦

故郷に帰って夫婦で歩む
〝牛飼い〟の道

彼女の実家で見かけたかわいらしい子牛。そのとき耳にした彼女の父親からの言葉。
二人は結ばれ繁殖農家として果敢に挑む日々です。

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 立冬を迎えて、赤や黄に染まる奥羽山脈や鳥海山。四季を映す山々を望み、翡翠に輝く雄物川が流れる秋田県大仙市は、畜産が盛んな地域です。畜産農家百二十三戸のうち、八割の百一戸(令和元年)が肉用牛の繁殖農家です。
 そんな大仙市の南外地区で「南外畜産」を営むのは、佐藤大輝さん(26)と妻の優実さん(26)です。令和四年に夫婦で就農し、黒毛和牛を飼育する若き畜産家です。
「朝は六時に牛舎に来て、まずは餌やりをします。母牛二十一頭、育成牛三頭、子牛が十二頭いるので、すべて終えると九時半ごろかな。朝晩が冷え込むので、とくに寒さに弱い子牛の様子に注意しています」

 秋田市出身で高校卒業後、岩手県盛岡市で暮らしていた大輝さん。交際していた優実さんの父が、大仙市で営む牛舎を訪ねたことがきっかけで、畜産に興味を持ち始めます。「繁殖農家だから牛舎には子牛が多くいて、なんかかわいらしかった。義父から『後継者がいないから辞める』と聞いて、もったいないと思って。二人でやってみないかと話してみたんです」
 いっしょに働けるのはうれしいと、賛成した優実さん。以前から、自然に恵まれた故郷で、ゆったり子育てをしたいと思っていました。そこで結婚を機に大仙市に戻り、繁殖農家を継ぐことを決心しました。

「母子分離」に挑戦も個体差があり模索中

 研修を受けることもなく、実践からスタートした二人。大輝さんは、経験豊富な義父と子どもの頃から手伝う優実さんに、仕事の基本を教わります。
 さらに、最新の繁殖技術や飼育知識を深めたいと、先輩農家の牛舎へ二人で足を運んで助言をもらうなど、積極的に取り組みます。
「今もわからないことは、気軽に相談しますよ。みなさん優しいんです」と大輝さん。
また、JA秋田おばこからの依頼もあり、大輝さんは地域の出荷用子牛の調査を手伝うことになりました。
「いろいろな牛舎を訪ねるから勉強になるよって、JAの畜産担当者から話をもらったんです。おかげで畜産農家に知り合いが増えて、飼育管理の視察もできました。ありがたい経験でしたね」

 畜産仲間やJAとのつながりをとおし、さまざまな学びや経験を得るなか、二人は新たな挑戦を始めます。
 それは、生まれた子牛と母牛を隔離する「母子分離」と呼ばれる育成方法。母牛の早期体力回復を図ることで、次の種つけが早く実施できる利点があります。
 しかし、母乳による免疫が得られないためか、子牛が下痢をしたり、衰弱したりする難点もありました。
「獣医に相談して、腸内バランスを整える生菌剤を粉ミルクに混ぜるなどの工夫をしています。以前よりは改善してきていますが、子牛も個体差があるので今も模索中ですね。ただ分離をした子牛は、人なれします。投薬のときに管理しやすくなるのがいい」

 繁殖農家の仕事を究めていくため大輝さんは、令和五年に秋田県畜産試験場で一か月ほどの研修を受け、「家畜人工授精師」の資格を取得します。
「これまでは授精師に来てもらう必要がありました。ただ、うちの牛をいちばん知っているのは自分ですから、タイミングの管理やケアもしやすい。費用がかからないのもいいですね(笑)。次は、牛の蹄を切る〝牛削蹄師〟の資格も取得したいです」
 日々の作業から育成法や必要な資格の取得まで、つねに二人で相談し合って、新たなことに取り組んできました。
 試行錯誤を重ねること三年、これまでの挑戦が大きく実を結びます。六年に開催された地域の畜産共進会において、飼育牛が最高賞の「秋田県知事賞」の栄誉に輝きます。その後の「秋田県畜産共進会」でも高く評価され、優等賞を手にしました。
「休みもなくて気軽に旅もできない仕事ですが、これまで夫婦でがんばってきたことが〝大きなカタチ〟になりました。県大会でも評価され、とてもうれしかった。来年(七年)も受賞をめざそうと、意欲が湧きました」
 二人は口をそろえます。

 三年後は母牛を三十五頭に、将来的には五十頭以上に増やしたい、と意気込みを語る大輝さん。その言葉に促されるよう優実さんも続けます。
「牛を増やすのはもちろん、今は子牛の出荷だけですが、いずれは肥育もしていきたい。そして、食肉加工まで手がけて南外畜産が育てたお肉を、消費者へと届けられるようにしたいですね」
 将来、子どもが職業選択の一つに考えてくれたらいいな、と笑う二人。父から受け継いだ繁殖農家を、そして地域が誇る「秋田牛」を、〝牛飼い〟として歩む若い夫婦がつないでいきます。

文=森 ゆきこ 写真=鈴木加寿彦

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