大地のおくりもの

連島ごぼう

  • 岡山県 JA晴れの国岡山 東部出荷組合(岡山県倉敷市)
  • 2024年12月

砂壌土ですくすく育つ 白くて柔らかく、甘い

連島ごぼう

江戸時代の干拓地で始まったゴボウ栽培。気候や土地の条件を生かしながら耕作に心を込める産地を訪ねました。

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 秋の日ざしを反射して、川砂によく似た土の粗い粒がキラッと光る。生き生きと波打つ緑色の茎葉のつけ根を手でつかんでていねいに引き抜くと、スラリとまっすぐに伸びた、長さ八十センチものゴボウが姿を現した。
 昭和二十二年頃から岡山県倉敷市地域で栽培され、国内随一の品質の高さで評価されている「連島ごぼう」だ。連島ごぼうを深い地中から鮮やかな手際で次々と引き抜くのは、JA晴れの国岡山・東部出荷組合組合長の三宅晴夫さん(52)。
 多いときは一日に二千本の連島ごぼうを、手作業で一本ずつ抜いて収穫する。祖父の代から連島ごぼうを生産してきたという三宅さんが、産地の成り立ちを説明する。

「この畑は、もともと川の支流が流れていた廃川地なんです。明治時代に始まった国の改修事業によって川の流れがせき止められ、現在の水はけのよい沖積砂壌土の畑ができたと聞いています」
 瀬戸内海に面した連島地域は、その名のとおり、かつては小さな島だった。江戸時代の干拓によって形成された低平地で、一級河川の高梁川とその支流に挟まれた土地だったため、明治時代までは五年に一度ともいわれるほど、度重なる水害に苦しめられた。
 そこで国が明治〜大正時代にかけて、河川の改修工事を実施。高梁川の支流が流れていた場所は、豊かな農地に生まれ変わった。
「もともと川砂なので根が伸びやすく、根菜が向くといわれ、祖父の代まではダイコンも生産していました。いろいろな作物を試した結果、ゴボウ栽培に最適な土地だということがわかり、昭和二十二年頃からゴボウの生産が本格的に始まりました」

土地の条件がよく奇跡的に誕生

 連島ごぼうの魅力は、白さと柔らかさ、そして甘さ。うっすらと土の付いた皮をむけば、ゴボウとは思えないほどきれいな白肌が輝く。こうした特徴は連島の砂壌土で育つゴボウならではのもので、他県ではまねできない品質だと三宅さんは言う。
「雨が降っても水がスーッと抜けちゃうので、浸水による根腐れの心配はありません。ただし、設備がぜったいに必要です。この辺りは伏流水が豊富なので、灌水には困りません。砂壌土で水はけがよく、かつふんだんに水を与えることで、白く柔らかいゴボウになります」

 基本的には、毎日夕方に灌水する。ポンプでくみあげた地下水を、畑に設置したパイプの細かい穴から畑全体に行き渡るように散水する。
 さらに収穫前は早朝にも灌水し、土中深くまで水分を浸透させることによって、ゴボウを抜けやすくしている。
 ちなみに岡山県は「晴れの国」といわれるほど、晴天率が高い土地。連島地域も晴天が多く、比較的雨が少ないため、こまめな灌水が栽培の成否のカギを握る。
 ただし近年は不測の豪雨に見舞われることもあり、後、すぐに大雨が降れば種が流されてしまうこともあるため、「直感」もたいせつだと三宅さんは笑う。

 土づくりでは、水もちをよくするために堆肥や土壌改良剤をき込む。連島ごぼうを生産する東部出荷組合の生産者は、年二〜三回、作型ごとに公的機関で土壌診断を受けて、資材が過剰にならないような土づくりを徹底しているという。
 さらに作付け前には手押しの自走式トレンチャー(溝掘り機)を使い、深さ八十センチもの深耕をする。そこを平らにして、種を五〜八センチ間隔でまきにする。播種前の深耕によって、土がほぐされ、連島ごぼうがまっすぐに長く伸びる。
 収穫した連島ごぼうは、細い根を取り、澄みきった地下水にドブンとつけて、きれいに洗う。そのあと、サイズ別に分別し、一本ずつ袋詰めしたものを段ボール箱に詰め、JA連島集出荷場に運んで出荷する。

 JA晴れの国岡山倉敷アグリセンター営農課課長の松本浩二さんは、こう話す。
「連島ごぼうは、この土地のさまざまな条件が重なって、奇跡的に誕生した日本一のゴボウだと思っています。市場での評価も高く、一般的なゴボウの二倍ほどの価格で取り引きされています。風土の産物を、次世代に伝えていきたいです」

 出荷シーズンは、ほぼ通年。三つの作型を組み合わせて、中国・四国地方を中心に出荷されている。なかでも近年、市場で引く手あまたの人気を誇るのが、八月末〜九月初めに播種し、十二月に出荷される「新旬ごぼう」だ。
 真冬の連島ごぼうが出回ると、まもなく新春が訪れる。

文=加藤恭子 写真=前田博史

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