大地のおくりもの

ナメコ

  • 新潟県 JA魚沼管内 ゆきぐに森林組合(新潟県十日町市)
  • 2025年5月

ぷりぷりとした食感がたまらない

ナメコ

能登半島地震の被害で、ナメコ生産は停止に。しかし翌日から奮起し、生産を再開するまでに復旧しました。
そんな全国トップの産地を訪ねました。

カテゴリ

 日本有数の豪雪地帯である新潟県十日町市松之山地区。冬、四メートルを超える雪の壁に囲まれた山道の向こうに、白い湯気をもうもうと上げる「ゆきぐに森林組合」の大規模農業施設「松之山なめこ工場」が見えた。知る人ぞ知る、日本トップクラスの規模を誇るナメコ生産工場だ。
 工場内に入ると、そこは薄暗い空間。ひんやりとした冷気の中、わずかな明かりを頼りに目を凝らしてみると、高さ十五メートルの天井近くまで、ナメコが育つ瓶が積み上げられていた。その壮大なスケールに、しばし息をのむ。
「ここは、あと五日ほどで出荷されるナメコの生育室です。工場の延べ床面積は約六千平方メートルで、年間の生産量は千五百トンです」

 そう説明してくれたのは、ゆきぐに森林組合きのこ部部長の植木竜博さん(49)。JA魚沼きのこ部会の部会長でもある。管内のナメコ生産量は年間約五千トンと全国一位であり、本州全域に出荷されている。
 ナメコの生産は、培地づくりから始まる。培地の材料はブナやナラなど広葉樹のおが粉を主体とし、トウモロコシの芯を砕いたもの、ダイズの皮や小麦のふすまなど有機質一〇〇パーセント。これらをよく混ぜてつくった培地が、ナメコの栄養源となる。
 水分調整された培地を瓶詰めしてキャップを締めたら、高圧殺菌窯に入れて高温で殺菌する。窯から出したあとは放冷し、培地にナメコの種菌を接種する。

 ここから培養期がスタート。まずは、初期培養室で静置する。そのあと後期培養室へ移され、さらに静置。培養する日数は、合わせて約六十日になる。
「培養室はいっさい光が入らない、真っ暗な空間で管理します。ナメコにとっては、初秋の森の中、落ち葉の下のイメージですね」
 培養中は種菌が菌糸を瓶内に伸ばすため、上から少しずつ培地の色が白っぽく変化していく。瓶内に菌糸が回ったら、培養は完了になる。
 まだ表面には、ナメコは発生していない。ここまでの工程は、工場に併設する「なめこ培養センター」でおこなわれている。

生産を再開、輸出も視野に

 培養が完了したら、いよいよ生育期。培地の表面を薄く削る「菌搔き」という工程を経て、芽出し・発生室へと移される。すると、菌搔きの刺激により、瓶の表面に小さな〝赤ちゃんナメコ〟がいっせいに発生する。
 そのあとは、最終段階の生育室へ。室温はぐっと下がっている。急にひんやりとした空気の中で、ナメコは秋本番の状態になっていく。
 ここで数日過ごしたナメコは、こんもりとした立派な株に育って出荷される。最後に室温を下げることで、ナメコの身が引き締まって食感がよくなる。

 ナメコ栽培でいちばん怖いのは、雑菌が入り込むことだと植木さんは説明する。
「キノコは菌ですから、いわば〝菌と菌の戦い〟なんです。外から雑菌が入らないような換気システムにしていますが、とくに夏は雑菌が繁殖しやすい。近年、収量が落ちたので、吸気の場所を変えるなどの工夫をして、なんとか被害は収まりました」
 たいせつなのは、徹底した清掃と衛生管理になる。薬剤は使わずに湯と水のみで、手作業による清掃を基本にしている。

 令和六年一月一日に発生した能登半島地震で、この地区は震度5弱を観測。塔のように高く積み上げられた三百万本の栽培瓶のうち、上方の多くが棚から落ち、大きな被害に遭った。植木さんは当時を振り返る。
「自宅から工場に駆けつけ、扉を開けて惨状を目のあたりにしたときは『終わった』と思いました。一年で唯一、工場がストップする休日で、人的被害がなかったことがせめてもの救いでした」
 しかし、翌日からは気持ちを切り替え、奮起した。従業員と手作業で壊れた瓶を一つずつ撤去。JA魚沼から「浅河原きのこ集出荷場」課長の勝又隆行さんほか職員、取引企業からも応援が来てくれた。
 ナメコの出荷は停止したものの、着実に再開へと向かっていった。稼働できたのは同年五月下旬だった。
「多くの人に応援していただき、ふたたび安定した生産ができるようになりました。今後は輸出も視野に入れ、より多くの人たちにナメコをお届けしたいと思います」
 そう自信を見せる植木さん。
 雪景色の冬から、まもなくもえぎの春へ。春夏秋冬に景色を移ろわせる山あいから、全国各地にぷりぷりとしたナメコが届けられる。

文=加藤恭子 写真=研壁秀俊

ふれあいJA広場・
ローカルホッとナビ

本サイトは、全国47都道府県のJAやJA女性組織の活動をご紹介する「ふれあいJA広場」のWEB限定記事と、月刊誌『家の光』に掲載している「ローカルホッとナビ」の過去記事が閲覧できるサイトです。
皆さまのこれからの活動の参考にぜひご活用ください。

2024年3月までの「ふれあいJA広場」記事は、旧ふれあいJA広場をご覧ください。