地域にエール!
特産クワイの出前授業で笑顔広がる
- 広島県 JA福山市 (広島県福山市)
- 2025年5月

特産クワイの出前授業で笑顔広がる
地域の特産がどのように栽培されているのか知らない子どもたちにどう伝えるのか。
JA福山市の新たな取り組みが好評です。

「あるよ、あった!」
「やばっ、これは、でかい!」
発泡スチロールの箱に入った冷たい泥をかき分けて、子どもたちが懸命に掘り出しているのは「クワイ」。ここ広島県福山市の特産品です。
おせち料理でおなじみのクワイは、丸い塊茎から芽が出ている姿から、「食べると芽が出る(出世する)」縁起物の野菜とされてきました。加熱すればホクホクとした食感と、独特のほろ苦さや甘みを味わえます。

市内で栽培が始まったのは、明治の頃。福山城の堀に持ち込まれたことをきっかけに栽培が広がり、今では全国一の生産量を誇っています。令和二年には「福山のくわい」として、農林水産省の地理的表示(GI)保護制度にも登録されました。
市内では学校給食に登場するほどの野菜ですが、クワイがどのように栽培されているかは、地元でも一般家庭では知られていません。
「子どもたちにクワイのことをもっと知ってもらい、愛着を持ってもらいたい」
そんな思いからJA福山市では令和五年から、小学三年生を対象に「クワイ出前授業」に取り組んでいます。
きっかけは、JA福山市常務理事の在間弘和さんが、組合員との会話で「わが家のおせち料理に使うクワイは、漬け物の樽で自家栽培している」と聞いたことでした。
「それなら小学校でやってみたらどうだろうか、と思いついたのです。福山市立駅家北小学校校長の松葉信男さんと知り合いだったので、提案してみたところ、すぐに賛同してくれました。でも準備は、なかなかたいへんでしたね。スーパーに頼んで、発泡スチロールの箱を準備するところから始まりました」
在間常務は、当時を振り返ります。
そのとき先生役に抜擢されたのが、当時、JA営農指導員だった組合員課係長の髙橋康一さん。ふだんは別の作物を担当していたため、授業に向けてクワイについて猛勉強しました。
さらに髙橋さんは、子どもたちが少しでも楽しく学べるように「クワイマン」というキャラクターに扮することを、みずから提案したそうです。


福山のクワイは日本一じゃけん!
クワイの出前授業は、六月の定植から始まります。まずはクワイの圃場から土運びです。その量は、軽トラ二台分にも及びます。それを十五個の箱に小分けし、肥料を加え、たっぷりの水を注いで、クワイを植えつけます。
以後、水やりは子どもたちに任せましたが、髙橋さんもクワイのことが気になって、仕事の合間に小学校に立ち寄っては生育ぶりを観察。水やりや葉切りなどの世話をしてきました。
実は前回、初めてのクワイ出前授業では、夏の水の管理不足でクワイがほとんど枯れてしまいました。作物を育てる難しさを知り、反省を生かして臨んだ今回でした。

定植から半年後、待ちに待った収穫の日がやってきました。クワイは、泥の中に伸びた地下茎が肥大したもの。季節は十二月、手がかじかむほどの冷たさでしたが、子どもたちは泥だらけになりながらクワイを収穫しました。

「植えたのは一つだったのに、こんなに増えた」
「ほら洗ったら、こんなきれいな色になったよ」
「あっ、宝石みたい」
そんな子どもたちの様子を見ながら、松葉校長も目を細めます。

「ありがたいです。地域の特産品ですが、直接触れる機会はなかなかありませんから。しかも作物を育てるのは、簡単なことではありません。手間がかかるし失敗もある。だからこそ、できたときはうれしいんです。このクワイ栽培の体験が、子どもたちの心に残ってくれたらいいなと思います」
定植や収穫の前には毎回、教室でクワイに関する授業もします。クワイの特徴や、育てる苦労、おいしい食べ方を伝えるためです。
出前授業での収穫体験を終えた子どもたちの表情は、充実感に満ちています。そして、熱く語ってくれました。
「福山のクワイは日本一じゃけん!」
JA福山市の思いは子どもたちの中に、しっかりと、ずっしりと、実を結んでいるようです。
文=茂島信一 写真=吉田真也